日本語の作文技術

◆文書作成が苦手である。社外に出て行かないモノなので一銭の儲けにもならないし、何より面白くない。
しかし上司の経営判断を誤らせないためには、文書を作るしか無いのだろう。
短く、誤解を与えない日本語を速く・論理的に書けるようになれば、残業時間を減らせるハズだ。
 本書は日本語の”文法”について解説した本だ。
 例えば、修飾の順序には大原則として
   1.節を前にし、句を後にする
   2.長い修飾語は前に、短い修飾語は後に
というルールがある。
このルールに基づいて下記の修飾語を一つに纏めると、
   ・速く走る。
   ・ライトを消して走る。
   ・止まらずに走る。
      ↓
   ・ライトを消して止まらずに速く走る。
となる。その他の語順では誤解を招くおそれがある。
このように、論理的な日本語を書くためには文法の習得が有効である。日本語には確立された文法が無いために文法の構築まで行っている。
本書は第二章から第七章までは文法の解説がなされ、日本語の文法習得に役立つ実用書として売れ続けている。(私が購入したのは第40刷)
◆以下本書のメモ。

・言語とはすなわちその社会の論理である。

・ただ、日本語が論理的であっても、それを使う人間が論理的であるとは限らない。

・日本語の語順は特殊ではない。インド、トルコ語アイヌ語なども同じ語順。「日本語は論理的でない」という俗説は事実として間違っている。

・「フランス語がフランス社会で役立っているのと同じように、ホッテントット語はホッテントット社会に役立っている」(千野栄一氏)ホッテントット社会では、フランス語はまるで「非論理的」であろうし、仮に意味は分かってもその社会に無用の言葉が多いばかりで、必要な言葉は不足しているだろう。

・「世人はフランス語の明晰とフランス的明晰とを混同しているのだ」シャルル=バイイ氏
「フランス語の明晰性はこの言語の構造がずばぬけて明晰であるというより、むしろフランス人が彼等の国語を用いるときに明晰な表現を求めることに深く意を用いるという事情に由来するのだ」シャルル=バイイ氏

・フランス語が明晰に思えるのは、状況依存の表現を避ける努力の結果であって、フランス語自体に明晰さが内包されているわけでは無い。

・日本で生まれた文法の伝統は、徳川時代末期に西洋の学問(オランダ語→英語)が導入されたことで、その芽を摘み取られてしまった。オランダ語や英語の文法範疇類を日本語に導入した。構造が大きく異なる言語の文法をそのまま導入した結果、悲惨なものとなってしまった。


日本語の作文技術 (朝日文庫)

日本語の作文技術 (朝日文庫)

◆実用的な話はココまで。本書で最も面白いのは第一章の”なぜ作文の「技術」か”である。
最初の方は題名通り、本書の意義について述べているのだが、途中から筆が乗ってきたらしく作者の主張が強く述べられている。要約すると「”日本語が特殊で非論理的なイケてない言語なお陰で、論理的な文章が書けない”という知識人が多いが、イケてないのは君たちの方だ」という内容だ。
日本語で論文を論理的に書けない私には耳の痛いお言葉である。


本書の作者はその解決策として本書を書いたわけだが、ここは私なりの解決策も探すべきだろう。

 会社で受けたロジカルコミュニケーションの授業では、
「日本人は一般的に、相手の意図を察する能力が優れている。その反面、論理的に意図を伝える能力は低い。」
と習った。
 一方小学校の国語教育を思い出してみると、まともな”作文技術”を習った覚えがない。学校の指導要領*1においては文法への言及はそれなりにある。しかし記憶に残っているのは「頭に浮かんだことをそのまま書けばよい」という読書感想文と、「登場人物の気持ちになって考えてみましょう」という読解である。

つまり長所である「察する能力」を強化し、弱点である「論理的に意図を伝える能力」は放置する、日本の教育制度には珍しい方針なのかもしれない。


渡久地先生(ONE OUTS)は
「日本人ってのはどうして弱点があると直そうとするかね、弱点が気にならないくらい長所を伸ばそうとしないかね」
と仰っていたがここに例外が。


 となれば。
この長所をさらに伸ばすべきなのかも知れない。相手の発言から言いたいことを類推するのみならず、何も言わなくても意図を察知する「サトリ」の域まで高めることが重要かもしれない。

サトリをCoolなNinja技能として宣伝し、世界のあこがれにすれば、日本語は非論理的な言語だなどという批判はなくなるだろう。相手の意図を察知するため常に一挙手一投足を見逃さない超監視社会*2。素晴らしきディストピア

*1:小学校指導要領 第一節 国語 http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301b/990301d.htm

*2:かつて足あと機能が備わっていたSNSがあったとか