勘定奉行 荻原重秀の生涯
勘定奉行 荻原重秀の生涯 ―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)
- 作者: 村井淳志
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/03/16
- メディア: 新書
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ジャンルはノンフィクション元禄経済小説.
恥ずかしながら元禄改鋳については教科書通りにインフレの原因だと思っていた.
しかし,本書にあげられている資料ではインフレは10年平均で年率3%程度となっており,インフレにより民衆は大混乱という印象は感じられない.元禄改鋳が行われた年が記録的な冷夏だったことが物価高騰の原因と考えて良さそうである.
本書で示されるように経済規模が大きくなる一方で,供給される貨幣が金属生産という自然条件で制限されることは経済活動への制約となる.荻原重秀はその点を17世紀の時点で理解し,「実用貨幣から名目貨幣への転換」を行った.江戸初期の日本は世界の金の3〜4割を生産していたというが,「金算出が豊富な閉鎖経済圏」という日本の特異な条件が可能とした金融政策の一大転換である.
有能な人は常に一石二鳥となるような政策を実施するが,元禄改鋳も「当時不可能だった商業への課税」という目的もあったようだ.貨幣の価値を減じることで商人が退蔵している富の一部税務調査をすることなく政府が取得できる.さらに資本家達に貨幣を退蔵することのリスクを覚悟させることで,富を投資に振り分けさせるという手法は見事というほかない.
作者は本来小説を書きたかったが出来なかった,と謙遜しているが巻末の膨大な量の参考文献に見られるように緻密な調査を元にしたデータからは荻原重秀の極めて怜悧で有能な政策官僚という側面を生き生きと映し出している.
「貨幣は国家が造るもの,たとえ瓦礫であっても行うべし」
至言.佐藤大輔あたりに小説化してもらいたい.